1月の後半、正月の代休が何日か取れたので、映画のはしごをしてきました。
今年最初は「ヒトラーの贋札」。 第2次大戦中、ナチに強制収容されたユダヤ人の中から、“ベルンハルト作戦”と名付けられた敵国紙幣の偽造作戦に従事させられた人々の物語です。
ナチの残虐非道については語るまでもありませんが、この作品はそれらの描写を控えめにし、偽札作りに関わった人々がおかれた状況と心理がメインになっていることで、サスペンス調の娯楽作品として楽しませてもらいました。
主人公の、紙幣を含む公文書偽造のプロ(勿論犯罪者)"サロモン・ソロヴィッチ"は、自分と、関わった周りの仲間の命を長らえるためナチに協力し偽札作りに取り組んでいきます。 一方原作の著者でもあり印刷技術者の"アドルフ・ブルガー"は、ナチの作戦に荷担することで戦争をドイツ有利に導き、ユダヤ人の立場をますます危うくすると考え、偽札作りをサボタージュします。 そして、完成を急ぐ責任将校"ヘルツォーク"は、偽ドルの完成か、仲間の命か選択するよう迫ります。 自分の命と仲間の命、もっと大所からの戦争と同胞への正義感、どちらがより尊いかを語るのは無意味だと思いますが、人にとっての究極の選択ともいえるこの状況が緊迫感を生んでいます。 作業に関わったユダヤ人達それぞれの立場での人間描写、ナチ将校の意外な紳士ぶりなど、細かいところも良く描かれていて、また、戦争を背景に作られた映画にしては銃撃戦は一度も登場しません。(多分) 強制収容され虐待されたユダヤ人と、作戦に関わったメンバーとの扱いのギャップを対比するため、冒頭サロモンが一般収容されていたときと、終戦時に解放された囚人の様を描くことで状況を再確認させられますが、 全体に残虐さを抑えめにしたことで、悲惨なイメージで覆われなかったところが良かったと思います。
現代の偽札と言えば、某社会主義独裁国の公共事業「スーパーK」が思い浮かびますが、米ドルというのはそんなに簡単に偽造されてしまうものなのでしょうか・・??
at 日比谷 シャンテ・シネ
午後2本目に突入、こちらは今のアメリカが直面している戦いをテーマにした「勇者達の戦場」。 原題は“Home of the brave”「勇者の家」とでもなるのでしょうか? イラクに派遣された兵士達の帰還後を描いた所謂社会派の作品です。 今も活動を続けているイラク戦争後の治安維持部隊が戦闘に巻き込まれ、心身ともに傷つき帰国するところから物語は始まり、そのメンバー数人の帰国後の苦しみを辿ってゆく手法で、アメリカが抱える闇の一端をあぶり出していきます。
自由と正義の名の下に世界中に軍隊を派遣し、その掲げる理想を犯すもの達を敵と見なし戦いを挑み続ける・・「覇権国家アメリカ」。 正義の戦いを続けるには、戦場に赴く兵隊が必要であり、そこには生身の身体と心を持った人間がいることにあらためて目を向けさせられます。 そして、そこで戦った者達が傷を負った心と身体のまま平和な母国に戻ると、そこにはもう一つの戦場があった・・なかなかうまいタイトル訳ではないでしょうか。 夕食時にダイニングのTVで毎日の流されるイラク情勢を、遠い地球の裏側の出来事としか捉えられない平和慣れした「普通の人たち」と、極限の体験をして戻った兵士達とのあまりのギャップが、リアリティをもって迫ってきます。 主な登場人物4名が各々違った苦しみを抱え、苦悩する様の演出・演技は共に素晴らしいと思いました。 物語の半ば、セラピーに参加したメインキャラのひとり"ジャマール"が、同席した熟年男に「どこで戦ったんだ?」と聞くと、「ベトナム」と答えるシーンがありますが、このテーマは30年以上かかっても解決できない深い闇なんだと言うことを思い知らされるシーンです。 このあたりをエンタメに味付けすると「ランボー」になるのでしょうか?
冷戦後の新たな敵イスラム原理主義過激組織を相手取り、自由と正義の旗のもと「テロとの戦い」を続けるアメリカ。 本作品で描かれたような犠牲者達を次々に自身の国内に生み続けなくてはならない負の現実と、政策決定に大きな影響力を持つといわれる「産軍複合体」の利益構造の現実、どちらも現代アメリカのリアリティなのでしょう。
at 銀座シネパトス
最近のコメント