年末は、だんだん忙しくなって来るので、今年最後と思い2本続けて鑑賞してまいりました。どちらも、以前にロードショー公開されたものの再上映です。1本目は「ツォツィ」。《アパルトヘイト後も続く南アフリカの過酷な現状と、未来への希望を見つめ、第78回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した作品》との解説があります。 2本目は「パラダイス・ナウ」 《第78回アカデミー賞外国語映画賞ノミネートの他各国映画賞を多数受賞》とのこと。 映画賞受賞作が自分の好みと一致するかというと、必ずしもそうばかりではないのですが、一応期待は高まります。
はじめに「ツォツィ」への感想文から・・。 シンプルなストーリーで、特にひねりもないので、南アの情景描写と、主人公の生き様への共感を得られるかが、本作を楽しめるる条件かも知れません。 最も貧しく危険だと評されるヨハネスブルグのスラムに暮らす不良主人公の冷酷な日常が、ある日を境に一変し、次第に人間性に目覚めてゆくというのがメインのテーマです。
まずはネガティヴな感想から・・。残念ながら、決定的にストーリー(脚本)のまずさが目についてしまった部分があります。それは、主人公が、裕福な女から強奪した高級車の後部座席に、赤ん坊を発見し、自分の住処に津連れて帰る場面ですが、それまでの冷酷非道な不良少年が、何故そのような行動に思い至ったかという必然性に説得力がなく、その後に描かれる、赤ん坊との暮らしぶりなどがイマイチウソっぽく見えてしまうのです。 劇中もっともエポックとなる場面だけに、とてももったいないと思ってしまいました。 一方、南アの現在を描く部分には、結構ショックを受けました。 地下鉄構内の横断幕に大書きされたAIDSに対する警告文、そしてその病で死んだであろう主人公の母親、空き地の土管で暮らすストリートチルドレン等々。 また、主人公の他者を射すくめるような眼差しと、その奥に潜む悲しみの光。 そして、その目にやがて宿る暖かさの描写などにも見るべきものはあると思いました。
主人公がエンディングで流す涙に共感し、自分も泣ける方はシアワセかも知れませんが、私にそこまでの感動は、残念ながらありませんでした。
さて、もう1本「パラダイス、ナウ」。こちらは、長く自分の心にとどまるであろう作品になりました。 イスラエル占領下パレスチナの真実の姿を知るには貴重な作品です。
まず、冒頭から全体を覆うイメージの象徴的な場面で始まります。 美貌のパレスチナ人女性スーハとイスラエル兵との間で無言で進む数分間のやり取りは、もしや何かが起きるのではと思わせるような緊張感に満ち、両者の立場をとてもよく表しています。 そして、自爆攻撃志願者の主人公サイードとハーレドは、ヨルダン川西岸のイスラエルによる占領地に住む、パレスチナの若者です。彼らには未来への展望も、希望も夢もなく日々を送っていますが、狂信的な振る舞いは見られません。 ある日、サイードとスーハが出会い、シンパシーをお互いに感じるのですが、その直後サイードとハーレドへ、自爆テロ攻撃への命令が下ります、それも、翌日!! 活動家のグループと接触した二人は、テルアビブでの自爆攻撃に向け準備を進めてゆくことになります。
物語はひたすら淡々と進みます。 攻撃決行の当日、国境(片方は国ではありませんが)のフェンスを切り、進入した二人をイスラエル軍が待ち受けピンチに陥りますが、そんなシーンにもスリルを盛り上げるような音楽や演出はほとんどなく、特に、変化を全く見せない主人公サイードの表情と相まって、ある時点から、これは大変な体験をしているのかも知れないと思い至るようになりました。 そう、まるで、ドキュメンタリー映像を見ているように・・。 歴史的知識としてのパレスチナ問題は少しは知っていたつもりではいましたが、必ずしも過激な思想信条の持ちとはいえない抑圧された大衆が、自爆テロへの路を選んでゆく事実、主人公の口から語られる言葉、行動からその圧倒的な現実を見せつけられました。 憎しみの連鎖、報復の応酬、いつか止める手だてがないのかという思いにも強く至りましたが、我が身の無力さをただ顧みただけでした。
ストーリーの中盤、自爆に赴く2人にごちそうが振る舞われる場面がありますが、その食卓での画の構図がダ・ビンチの名画「 最後の晩餐」と同じになっています。このあたりには少し遊び心を交えた作者のジャブといった感じかなとの印象です。
エンディングはこの上なく劇的です。 そして、黒い背景に白い文字が流れるエンドロールの間、一切の音がないのです。 暗い劇場内でのその数分間の沈黙が、それまで体験したすべてを思い起こさせるのでした。
最近公開されたアメリカ映画「キングダム~見えざる敵~」で、米FBI捜査官と協力しテロリストと戦うサウジの国家警察大佐役を演じていたアシュラフ・バルフムという役者が、自爆攻撃を指揮する活動家の指揮官を演じていたのが、なんとも皮肉でした。
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