唯一の超大国が抱える闇を静かに告発する・・。戦場で壊れてゆく若者達の見えざる事実。
イラクから帰還した息子マイクが失踪したことを知らされた、トミー・リー・ジョーンズ扮する元軍人警官の父親ハンクが、息子の所在を確かめに基地の ある町に向かう。無断離隊という不名誉な行いに釈然としない厳格な父は、軍警察の捜査に納得せず、シングルマザー女刑事エミリー(シャーリーズ・セロン) とともに独自に事実の調査を始める。そして、次第に明らかになる真実。
2003年に起きた事実を元にポール・ハギスが監督、脚本を手がけた作品とのこと。 あまり多くの予備知識を持たずに望みましたので、行方不明の息子を 捜す謎解きミステリー的なテーマの作品と思っていましたが、それだけではありませんでした。 いい意味で裏切られました。
マイクの死の真 相へ迫る過程で、彼が残した携帯電話の映像や声、戦友から知らされた「ドク」という愛称の由来などから、戦場イラクで何を見、体験し、心をどのように変化 させていったかが明らかになるにつれ、その闇の深さを父ハンクの目線を通して知ることになります。 軍人一家に生まれ育ち、正義感に溢れたよき青年が、戦 場の狂気により心を破壊されていく事実はあまりにショッキングで、言葉もありません。 退役軍人らしく投宿中も規律正しい日常生活スタイルを貫いていたハ ンクが、事件の事実に迫るにつれ、心なくも自堕落な態度に変わっていくのにも、抑制の効いた態度の裏に隠された心の変化が読み取れます。
そして、更に暗鬱になるのは、マイクを惨殺した犯人のセリフ、「自分たちがマイクを殺したが、時と場所が違えば、自分が殺されていたかも・・」。 そして、父に謝罪をするその目に精気はなく、うっすらと笑みさえ浮かべる表情はまるで抜け殻のようです。
刑事エミリーの存在は、軍社会の外側からの目線、つまり普通の米国人の感覚で事件を捉え、別の意味でのアメリカ社会が抱える暗部を対比させているようで秀 逸だと思います。 その幼い息子にハンクが語る「ダビデとゴリアテ」の逸話が、本作の原題“エラの谷” の意味するところでもあります。
このところ、米国の映画シーンはイラク戦争への反省ブームともいえ、この種の作品が多く作られています。 自由と正義と名の下、世界中に軍を送り続ける覇 権国家アメリカ。その国が、逆さ国旗を掲げなければならない事態に陥っているとしたら、それはいったい誰に向けてのメッセージでなのでしょうか? そし て、その混迷の出口は何処にあるのでしょうか?
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