久しぶりの映画感想文です。
海上保安庁勤務から南極ドームふじ基地隊のコックとして派遣された主人公、西村淳のエッセイ「面白南極料理人」を映画化 堺雅人が演じています。真夏に公開された日本映画ですが、文化系オヤジ達の閉鎖空間におけるオモシロ哀しき長期合宿風景描写・・といった感じの作品です。
冒頭のネタで、いきなり「プッ!」と吹き出してしまい、そこから始まる20分ほどで、極寒南極の、更に寒い高地でおっさんばかりの面子が繰り広げる不思議世界がおよそ解る作りになっています。
範囲が極めて限定された舞台設定の中で、隊員個々の人間観察がストーリーの基本となりますが、過酷な環境の厳しさ、大自然のダイナミックさをあえて描かない、過剰な感動を描かない・・むしろ淡々としていて、ほのかなユーモアを交えた日常描写が、日本人のメンタリティーをリアルに表現していて、うまいなあと感じました。
若い隊員が、日本に残してきた恋人の気持ちを繋ぎ止めておこうと、夜な夜な高額の通信料がかかる遠距離電話で会話をするナイーブさには、草食系男子の悲哀が満ちていて、お約束の顛末もなかなか泣かせます。 西村が調理をボイコット「ふて寝」し、他の隊員が作るまずい料理に涙するシーン、物語のクライマックスともとれる手打ちラーメンのシーン、衛星通信でのフジ基地と日本とのやり取りの場面、どれも非常によくできていて、「平凡に思える毎日だけど、ちょっとした小さな出来事に幸せを感じたり、躓きにも意味があったり、その繰り返しで少しずつ歩むのが人生なんだよ・・」という作り手のメッセージが聞こえてきそそうです。
西村によって饗される日々の食事は、その限定された材料にもかかわらずどれも凄く旨そうで、料理の見せ方にこだわった映像の作り手の狙いが成功していると思います。 そして、閉鎖空間の運動不足が容易に想像される環境で、毎日こんなものを食べていたら、私などは確実にメタボ一直線になってしまうだろうなぁ・・などと妙な不安を抱いてしまいました。
任務を終え、帰国する隊員達とを迎える人々と、その後の西村一家を少しだけ描く気持ちのいいエンドシーンが、鑑賞後の爽快感に繋がる良作だと思います。商業映画デビューの沖田修一監督、次回作が楽しみです。
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