セントローレンス川に面し、カナダとの国境を接する米国最北端の小さな町。そこに住む男の子二人の母親。非正規労働者として僅かの時給で働きながら、新しい家を買うことを夢見ているが、夫にその大切な金を持ち逃げされる。その悲しみの底から、ストーリーは出発します。 もう一人、先住民保留地に暮らす、「モホーク族」未亡人の女、若くして夫に先立たれ、経済力の無い彼女は、1才の息子を夫の舅に奪われている。 この二人が主役です。
成り行きで、関わりを持つことになる二人ですが、それぞれの心に巣くういらだちや、人間不信、根深い人種偏見などから当初は反目しあっています。 その関わりとは、 凍った河を秘密裏に渡り、カナダからアメリカへの不法入国者を運ぶことでした。 資本主義社会底辺に生きる女が、必然のように犯罪者に身を落として行きます。しかし、その姿を見て嫌悪感を覚えるものはいないのではないでしょうか。それは、女が母として生き抜くための術をぎりぎりの状況で選択することへの共感からだろうと思います。
その日の昼食代を、手持ちの小銭を何とか集めて手渡す母親と、受け取る息子のやり取り。無邪気な5才の次男と、半分大人になりかけて、あぶないアルバイトに手を染める15才の長男。職場で冷遇され、苦悩する母の姿を見つめる二人の目が対照的で、アメリカ社会の負の現実がリアルに伝わってきます。 そして、化粧っ化のない、生活に疲れたシワの多い顔のアップや、けっして美しいとは言えない下着姿などが画面に頻繁に登場する母親レイを演じたメリッサ・レオ。 セリフの少ない役どころながら、その演技からは微妙な心の動きが伝わって見事です。
やがて、不法ビジネスを重ねる二人に転機が訪れます。 中東の夫婦を運んだ際に起きる予期せぬ出来事から、それまで反目しあっていた二人の心が、微妙に変わり始め ます。それは、お互いの母親としての共感からですが、迫り来るクライマックスへの布石となります。 所行が当局の知るところとなり、犯罪者として負われる身となる二人、その後の人生を左右するであろう究極の選択を迫られる事態が・・・。 先住民問題を絡めたアメリカ社会の複雑さと閉塞を、シンプル且つ如実に表していて、スリリングで且つ心に浸る結末が訪れます。
「凍った河」に象徴される、冷たい現実と深い溝。 全編寒々しいトーンの映像が、エンドシークエンスでは、少し春を思わせる明るい光でしめくくられ、ほとんど笑わなかったモホーク族ライラが、我が子を抱きながら見せる笑顔と共に希望を予感させ暖かさがただよい、静かな感動で満たされます。
2010/02/13 渋谷シネマライズにて
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